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吼える月
第27章 再来
 
 ソンファは、白銀と青の中間のような淡い髪の色だった。集落には、青系統の髪の色を持つものは珍しいため、シバはソンファより青みがかった髪を誇りにしていた。自分だけが持つ色なのだと。


 ソンファは湿った咳をすることが多く、ギルからの配給品の中にある粉薬を飲んで養生していたが、顔色の悪さを除けば、集落一の美女。

 小さな集落のため、ソンファに言い寄る男達は少なくなかったが、ソンファは毅然と拒み続けていた。力尽くで…という不届きな輩がいれば、目聡くシバが見つけて、相手に噛みついて引き剥がしていたのだった。

 シバは父親がいないということでよく集落の子供達にからかわれていたが、自分が父親の分も母親を守るんだという心意気のために、返り討ちに出来るくらいに逞しく育っていった。


 ある夜、目覚めたシバは、母がいないことに気づいて探し回る。

 
 耳に幽かに聞こえる母の声を辿っていけば、そこは、潮騒が大きく聞こえる場所――、母から禁じられた外界からだった。

 境界を越えると、初めて目にする…月に照らされた幻想的な夜の海が見えてくる。

 集落のように岩に閉ざされていない海は広々としていて、シバは思わず感嘆の声をあげるほど、潮騒の正体に感銘を受けた。

 そして見つけた。

 大きな青白い満月を背にした、顔がよく見えない男女を。
 
……ふたりは抱擁しあっていた。


 女は母だと、直感的に気づいた。もうひとりは――。


 輪郭を辿ればその男の体格は大きかった。

 集落の男達のような擦り切れてうすら汚れた服ではなく、月明かりに照らされた見事な深藍の服は曲線模様が施され、外の世界を知らないシバですら、その男は自分とは違う世界に住まう男だということは容易に想像できた。

 母親が女に見えたその影で、シバは、生まれる前に死んだと聞かされていた父親が、実は生きて帰ってきたのではないかと思い気分が高揚した。
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