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吼える月
第27章 再来

 
――愛……いま……、ジウ……。


 母から不意に漏れたそれが、男の名前だと思ったシバは、何度も反芻して心に刻み込む。


――ジウ……シバ……子供…。


 三つの単語が重なった時、ジウは歓喜に涙した。


 この男は父親なんだ、と。


 父親の名前はジウ――。


 なぜ今まで顔を出さなかったのかわからないが、事情がきっとあるんだ。あんなに男にしなだれる"女"になる母親の姿を見れば、母もきっと父の帰還を待っているのだ。


――また来る。だから……まで……。



 父親は去ろうとしているが、


 "また来る"


 そう言っていたのだから、きっと、いつか迎えに来てくれるはず。


 だからそれまでに、賢く強くなって、出来のいい息子だと喜んで貰いたい――。


 息子でよかったと思われたいために、シバはドキドキする胸を押えてその場を去った。

 その夜は興奮して寝付けなかった。今度再会した時、なんて呼ぼうかと思えば、さらに寝付けず、次の朝に目にクマをでかしたシバを他の子供達が指をさして笑ったが、シバはニヤニヤと笑うばかりで相手にしなかった。

 
 父親が生存している事実は、シバにとって衝撃が大きいもので、事情を知らないソンファは、遊んでばかりいたシバが仕事を手伝い、そして年寄りに教えを乞い、集落一の聡明さを見せ始めることに驚く。

 
 いつか、父親……ジウと会うために。

 三人で暮らすために、ソンファを守るんだ。
 
 
 シバは寝込むことが多くなった母親の面倒を見ながら、心優しく、そして頼もしい若者に育っていく。

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