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吼える月
第27章 再来
"その日"――。
朝から胸騒ぎをしていたシバは、海鳥の啼き声が皆無なことに疑問を抱いた。
――そういうこともあるさ。
大人達は笑って取り合わない。"そういうこと"は、物心ついてこの集落に来てから、一度もシバは遭遇していない。
この胸騒ぎの正体が分からないから騒ぐのだが、仲間達は皆暢気だった。
外界に出られないことを除けば、平和な集落暮らしゆえに、シバには"危険"の意味がわからなかったのだ。
そして夕方――。
咳き込みが止まらず、喀血を始めた母親の背中を撫でていたシバは、家の外から悲鳴と、大勢の足音を聞いた。
慌てて簡素な住まいから飛び出せば、集落の仲間達が、武装した兵士達に無理矢理に連行されている。
道には、胸から血を流して倒れている者も多くいる。その身体を抱き起こして、虚ろな顔の男がシバを見て、
――なんで……俺達がこんな目に……。
悔しさを滲ませた言葉を吐き、事切れる。
――"光輝く者"達を連行しろ!! 抵抗する者達は殺せという指示だ!!
――きゃあああああ、シン、シン――っ!!
――お母さん、お母さん――っ!!
――この子に手を出すなっ、俺達がなにをしたというんだ!?
――お兄ちゃぁぁぁんっ!!
――お前達、死にたくないのなら、青龍の武神将に平伏せ!!
"光輝く者"
"青龍の武神将"
意味がわからないシバだったが、青龍の武神将というのが、皆を殺したり拉致するように命じているのだけはわかった。
シバは憤り、後ろ向きの兵士の背後に忍び、大きい刃の刀を奪い取って斬りつけたが、鍛錬をしたことがないシバには、刀を振り回すことが出来ず、さらには防具を躱して斬りつけることが出来る刀技も持ち合わせていない。
運良く斬りつけられたとしても、相手の頬に掠るくらいだ。
網を編んでいる縄が道にあったのを知り、縄を素早く動かして兵士をひっかけて転ばせ、その男に馬乗りになって刀で突き刺そうとするが、人を斬ったことがない純白の身体は震えて、手が動かない。
そんなシバは、大勢の兵士達が、母が残る自分の住まいに入っていくのを見て、蒼白な顔をしながら駆け戻る。