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吼える月
第6章 変幻
細雨を落とす空には、相変わらず赤い月が浮いている。
やがて――。
「ん……?」
道の向こう側に、松明を焚いた夥しい兵士が道を遮るように出現し、サクは目を細めた。
兵士の身形は、動きやすさを第一に考えられた黒陵のものではなく……鋼で出来た重そうな鎧で覆われている。
恐らく……倭陵中枢、皇主の座す皇城を護る近衛兵のものだ。
倭陵の精鋭部隊が、今夜のために各地に臨時に配置され、"魔に輝けし光を持つ者"を取り締まっているということをハンから聞いていたサクは、この兵士達に事情を話して、まずは陽が昇るまで安全な場所でユウナを休ませようと思った。
「……怪しい者、止まれ!!」
道の中央堂々と、上着をかけたユウナを抱いて現れたサクに、倭陵を守護する月の女神ジョウガを模した……三日月の印を鎧の胸に刻む男が、厳しい声を出した。
サクは立ち止まり、声を上げた。
「俺の名はサク=シェンウ。黒陵国玄武殿警備兵隊長、及び玄武の祠官の姫、ユウナを護衛する者」
「……サク……ああ、あの最強の玄武の武神将、ハン将軍の……!!」
近衛兵は倭陵共通の……胸に手を当てる敬礼の姿勢を取り、サクもそれに倣った。
「たった今、玄武殿は予言の"魔に輝けし光を持つ者"と不浄なる魔物、餓鬼の侵略によって陥落。祠官は死んだ」
「なんだって!!」
近衛兵達はざわめき集まってくる。
「なんとか姫は救い出した。朝になるまでどうか温かな場所を」
美しいユウナの噂は倭陵に知れ渡っているはずだ。
それでなくとも、そのユウナは明日婚儀を華々しく行う予定だったのだ。
……平和となった倭陵の、黒陵の国で――。