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吼える月
第27章 再来
「シバ。親は……いつまでたっても、子供を忘れない。厳しくて冷たい影に愛情がある。あるんだよ、シバ……」
テオンは嗚咽を堪えながら、シバに訴えた。
「僕達が見てきたものは、真実の断片。表層だけ。……その裏に隠されていることがあると、僕達は考えてこなかった」
「表層……?」
「そう。ジウは心の冷たい奴ではない。無論僕の父も。昔ながらの、昔以上に情に厚い人達だったんだ。非情に振る舞ったのは、僕達が強く生きるためにしてきたこと。詳しいところは端折るけれど、ジウは"遮煌"の前もあとも、実弟ギルを持って、シバをずっと見守り続けてきた」
「ギルが!?」
「勿論、ギルがシバを可愛がったのは、命令以外に彼自身の感情もあっただろう、ギルの愛情は疑ってはいけないよ。ギルはジウに成り代わって、シバを強くしてきた。
……そして、ジウが出した御触書によって、路頭に迷うだろう子供を、ジウの命を受けてギルは【海吾】で逞しく育てさせた。蒼陵の未来を担う子供達を。ジウは狂ったのではない、そのフリをしただけで、最初からすべて考えられていたのさ」
「そんな……」
シバは絶句した。
「シバ。お母さんはその命をもって、ジウの足枷にならないように命を絶って、シバをジウに託したんだ」
「ありえないっ、母さんは連行されることを拒んで……っ」
「お母さんが命を絶つ前、絶望していた?」
「してたさ!! この男に妻ではないと…オレは子供ではないと聞いて泣いて……」
「それだけ?」
「十分だろう!!」
「僕は違うと思うよ。お母さんは、ジウにありがたいと思って泣いたんだと思う」
「なにを根拠に…っ!!」
「その後、お母さんはジウに感謝の形を見せたはずだ。ジウに、命を絶つことの許しを得たはずだ」
「そんなもの……」
そしてシバは思い出す。
不可解な母親の行動を。
なぜ、ジウに両手をついて頭を垂らした?
それならまるで――、
「記憶に居たでしょう? ジウの言葉に感謝を見せ、ジウの枷にならないために、先立つ許しを訴えたお母さんが」
"ありがとう"、そう言っていたようではないか。