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吼える月
第27章 再来
だが――。
「あははははははは」
ゲイは笑う。
美しく整った顔を、愉快そうに歪めて。
それは降参という雰囲気ではなく、ジウの提案を嘲笑っているようだった。それに気づいたジウが顔を顰めると、ゲイは幻惑的な笑みを見せた。
「愉快な武神将に敬意を示し、余の手札をひとつ見せよう」
ゲイが指を鳴らすと、半壊したある船からなにかが宙に浮いた。
「さあ、あれはなんだと思う?」
それは――。
「ヒソク!!」
ジウの目が見開いた。
「ジウ、ヒソクを助けたんじゃなかったの!?」
「いなかったのです。いないどころか、罠が仕掛けられていて…私以外の兵は全て餓鬼に食われてしまいました」
「だとすれば、あれは本当にヒソクなの!?」
口に猿轡がなされて、全身をぐるぐると縄に縛られた格好のまま。
それは数年ぶりに会う――、
「ヒソクです、テオン様」
惨めな姿の息子だった。
ゲイが笑う。
「こうしよう。もしもお前を殺して鍵が出てこなかったのなら、あの者を殺す。お前はシバを生かすために、なにかを"待って"いるな?」
目を細めたゲイの剣呑さに、ぶるりとジウが身震いする。
「その時間稼ぎはさせぬ。選ぶがいい、青龍の武神将。
ヒソクという名の息子を助けたければ、真実を告げよ。
シバという名の息子を助けたければ、虚偽を告げよ。
どちらかひとりは殺し、どちらかひとりは手を出さずにいよう」
ゲイが足を一歩進めた。
「今一度問う。
青龍の鍵は、何処に?」
形勢は逆転。
どちらかを選ばないといけなくなったのは、ジウ。
後継にしようとしていたのに国を裏切って行方をくらませていたヒソクか、生かせるために今までいない息子としていたシバか。
「さあ、選べ。
選ばぬのなら、ふたりを殺す」
ジウが愛する子供のうち、ひとりだけを。
自分の死の道連れに――。