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吼える月
第27章 再来
「ふふふ、あの時……、サクは泣くばかりで、あたしが見つけたのよね」
ユウナは調度を動かし、湿気が多く含んでいそうな日影の場所を中心に、壁と同じ焦げ茶の床に座り、コンコンと指で壁を叩いてみる。
「それで、音が変わった部分にそこらへんの壷を壊してしまうくらい強くぶつけたら、大きな穴が出来て。サクと喜んで外に出たら、警備兵の宿舎で飼っていた獰猛な大きな犬が丁度逃げ出していたところで、ワンワン怖く吼えながらあたし達追ってくるから、あたしとサクは泣きながらまた穴から中に逃げたのよね。犬は身体が大きすぎて中に入れず、穴を塞いだまま。ふふふ、閉じ込められるより犬の方が怖くてないてたわよね」
次の朝にハンが迎えに来た時、ふたりでハンに抱きついて泣いて詫びた。倉庫に開けた穴は不問だったが、それを開けるために壊した壷が、父がとても大事にしてしまっていた高価な壷のようで、父に泣かれてしまったが。
コンコン……。
「あたしが武神将になってもよかったと思うわ。一時期、あたしの方がサクより強かったんだから!! それなのにあの泣き虫、ぐんぐんと成長して強くなって…。あたしを置いてきぼりで…」
コンコン……。
「いつから好きになってたのかなぁ…。あんなに一緒にいたのに」
コンコン……。
「いつからあたしはサクに好かれていたのかなぁ。いつからサクは、あたしを嫁に……」
――姫様。
「あたしを嫁に……」
――好きです、姫様。
「出る。絶対ここから出て、あそこまで泳いでサクに会いに……あった!! ここだわ!!」
音が変わった場所を見つけて、ユウナは飛び上がって喜んだ。
あまりに興奮していたために、わからなかったのだ。
背後の、こちらとは反対側の扉を静かに開いて、ゆっくりとユウナに歩み寄ってくる人影があったことを。