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吼える月
第27章 再来
 

「……その耳にある白い牙。それはサクの?」



 リュカの指摘に、ユウナの身体がびくんと震えた。




「……サクが、穢禍を…呪詛を、鎮静させられたのか。やりきったのか」



 声に含まれた僅かな興奮は、怒りのようなものでもあり、喜んでいるようなものであり。

 

「その牙は、身も心も捧げた忠誠の印。それをお前にさせるということは、お前は、鎮静のためではなく、最後まであいつに抱かれたの?」



 その憂いの含んだ目には――、
 


「心まで抱かれたのか、サクに」



 傷ついたような悲しみまで見て取れた。

 その悲痛な表情を見ているだけでユウナは、心臓を掴まれる思いがして、呼吸をすることが苦しくなった。



「弱ったお前につけこんで己の欲を満たしたサクを、愛するに相応しい男として意識したのか!?……今さら!」



 それは悲鳴のような声。


 意識がない時にも抱かれているということを前提に、リュカの双眸はぶわりと敵意のような強さを増す。

 リュカが身を屈ませて、ユウナの双肩を両手で掴んだ。


「答えろ、ユウナ」



 その指の力は、肉に食い込みそうなほどに痛い。


「お前がこんなに早く立ち直れたのは。僕への恨みすらその程度で終われるのは、サクが……」


 ユウナは身じろぎしながら、リュカの手を肩から払った。



「どうでもいいでしょう、そんなこと!!」


 ユウナは怒鳴り声を上げた。



「あたしはあなたの婚約者ではないわ、それにリュカはあたしを騙らせた妻がいるんでしょう!?」


「……っ!!」


 リュカの目が見開く。

 ユウナに、妻がいることを悟られていないとでも思っていたのか。


 ユウナは、本当にリュカに妻がいる事実に泣きたくなる。

 リュカが欲しかったのは、黒陵の姫という身分だけだったのだ。

 別の女に姫と騙らせているというのは、中身が自分でなくともいい……その証明ではないか。


 その事実に、心が突かれた。


 被害者はこちらだ。

 それなのに、なぜ自分が責められないといけない?

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