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吼える月
第28章 企図
「あの娘は自ら、その身体を余に捧げた。あの娘もリュカに気があるわけではない」
サクの嫁に相応しいと周囲に見られるほどに清純で出来た娘だったのに、娘を可愛がっていた黒崙の長を殺すほどに、そこまでにサクを好きだったのか。そこまで失恋の痛手が大きかったのか。
恋は、愛は、なんと凄まじいのだろう…。
ユウナの心が痛む。
もしかすると、リュカに裏切られた自分が味わった者以上の痛みを心に抱えているのかも知れない。昔から一途に、サクと結ばれることだけを想い続けてきたのであれば。
「ユマは今どこに?」
「ほう、娘の名前を知るか、姫。娘は今、隣の部屋で気を失っておる。余の激しさに気を狂わせ、注いだ精を垂れ流しながら。余は満足しておらぬというのに、あの娘、何度も勝手に果てながら、その度にひとの理性を捨てておる。今なら、ただ本能が赴くが如く、盛ってぎゃあぎゃあ騒いで果てるばかりのメス犬よ」
ゲイに抱かれながら、サクを夢見ているのだろうか。
サクの妻になる未来を、いまだ夢見ているのだろうか。
「そんなことって……」
なんと残酷――。
「ユマに同情するのなら、姫がユマの代替になればよい。ユマが姫に代わってサクに愛され、抱かれればよいのだ」
サクがユマに愛の言葉を囁く。
サクがユマと唇を重ねて、愛を込めてユマを抱く。
――姫様が、好きです。
「……嫌だっ」
心臓をぎゅっと掴まれたように、苦しくて息が出来なくなる。
我が儘なのかもしれない。
だけど――。
「あたしだって、サクを必要としている」
サクだけは譲れないのだ。
手放すことが出来ない。
自分だけの武神将なのだ。
黒崙に居た時の自分とは、違う。
黒崙では置き手紙ひとつだけで、サクを簡単に手放そうとした。だが今はそれが出来ない。したくない。
サクを好きだと自覚してしまった今、サクに他の女を愛して貰いたくない。幸せに、などといえない。
「同情で譲ることができるほど、サクの存在は軽くないわ」
それが、子供じみた独占欲を持つ自分の、"女"としての素直な気持ちだった。