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吼える月
第28章 企図
「ほう。"あの時"は姫が余に犯される姿を見せつけられる、ただの哀れな護衛だったのに、随分と昇格したものだ。……今は武神将か。父親が死んだのなら」
「え!?」
ユウナは服を掻き集めながら、ゲイに揺れる目を向ける。
"父親が死んだのなら"
「知らなかったのか。黒陵で余の"分身"にやられ、そしてリュカにその存在を掻き消された。その妻とともに」
「嘘よ!! ハンは最強の武神将よ、殺されるわけない!! サラを守るために死ぬわけはないわ!! それに再会しようって、約束したんだもの!!」
その非難は……、
「と言っているが、リュカ」
ゲイが薄く笑ってリュカに促した。
リュカは視線を下に落としたまま答える。
……ユウナの視線を浴びながら。
「……手負いのサラを助けるためにサクを見捨てるか、それともサクを助けるためサラを見捨てるか。……ハンもサラもサクを護る道を選びました。
そして、ハンのすべての神獣の力はサクに移譲され、ハンから神獣の力は消えました。……命と共に」
ユウナは頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じながら、思い出す。
黒陵で港に向かう時、サクは泣いていた。
――……俺には、姫様がいるからいいんです。寂しくなんか……ない。
リュカの声が重なる。
「サクも知っているだろう。その力をすべて受け継いだのだから。それくらいの感知は、出来る男だ」
――親父にはお袋がいる。お袋にも親父がいる。だからどこにいても幸せだと……信じることにします。