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吼える月
第28章 企図
「これは……サクちゃんと来た時と同じような、奇門遁甲。迷わせるための術!! だけど今回は、きっとそれだけじゃないね……」
ユエが言った傍から、地面から黒いものがむくむくと起き上がる。
それは人型の輪郭を象っていく。
「ひもじぃ~」
「あ゛~」
それは――。
「餓鬼!?」
腐臭すら漂わす、もう見慣れてしまった魔物。
こんな細い道の中、餓鬼に襲われてしまったら、ひとたまりもない。
せめて、ユエだけでも逃がさないと……。
ユウナが覚悟を決めて、鋭い眼光を餓鬼に放った時。
「大丈夫だよ、ユウナちゃん。ユエには笛がある!」
ユウナの心配を察したように、ユエが明るい声で言う。
そして懐から取り出した笛を吹き出すと、餓鬼達の動きが止まった。
「すごい…。ねぇ、その旋律…。港に行くときも思ったけれど、鎮魂歌?」
「きゃはははは。さすが、鎮魂舞が上手だと倭陵で有名なユウナちゃん。ユエは浄化の笛で、動きを止めることしか出来ないの。消し去ることは出来ないけれど、ユウナちゃんなら、そのうち鎮魂舞できっと餓鬼を浄化して消すことが出来ると思うよ。噂通りに、雷も止めてしまうのであれば。あの噂、本当?」
「うふふ、よく知ってるわね、ご家族に聞いたのかしら? 本当よ、おかげで踊りきることが出来た。なんで雷が止まったのかは、雷に訊いてみるしかないわね。たまたまなのか、あたしの舞いで退いてくれたのか」
鎮魂舞は、舞を見せることで、見ている邪を虜にして癒やし、最終的には邪を浄化させて消し去る術のひとつであるが、その舞いが美しいことから、舞として独立したものだ。
その舞はかなりの難関で、さらには知らずに魔を呼び込み取り囲まれることから、音楽に合わせて心身共に最後まで踊りきるのは至難の業とされた。
だがユウナは途中倒れないどころか、雷まで鳴っている悪天候を快晴にさせて、見事な舞いを披露し観衆に感動を与え、倭陵で並ぶ者がなしとまで言わしめた、貴重な踊り手でもある。