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吼える月
第28章 企図
そこまでになるには、覚えられない長い祝詞はハンに尻を叩かれながら、リュカの優雅な笛の音を何度も繰り返させながら練習していたのだが、ユウナには踊り手としての生まれ持った素質があった。
サクといえば……美しい舞いを間近に見て見惚れてしまい、使いものにならないために、ハンから"ユウナ養成組"から外され、ひとりいじけていた。
リュカに嫁ぐことが決まってからは、踊っていない。
「舞いで餓鬼を浄化して消すことができるの!? だけどあたし、餓鬼がたくさん居る前で、平然と踊ってられるかしら。それじゃなくても暫く踊っていないのに、踊りきれる自信ないわ」
「きゃはははは。餓鬼さんがたくさんの中で、あの長い祝詞を言わないといけないし、大変だね。練習を頑張れ、ユウナちゃん!」
「そうね、昔を思い出しながら頑張るわ!」
幼女に煽てられながら、その気になったユウナは思う。
鎮魂舞――。
自分だけが出来るのであれば。
サクの役に立てられるのであれば。
体力は消耗するわ、難しい踊りの上に難解な祝詞を詠じなければならない、あの今でも苦手な鎮魂舞を踊ってみたい。
今までしてきたことを無駄にはしたくないと、ユウナはそう思う。
リュカの笛の音がなくても、なんとかしたいと思う。
「ユウナちゃん、そろそろ行こう。ユエの笛が、餓鬼の動きを一時期止められても……消すことはできないの。動きが止まっている今のうちに」
「行こうって……出口がわかるの!?」
「わからないけど大丈夫! ユエのお人形さん賢いから!」
「お人形さん?」
ユエは懐から、小さな…紙で出来た人型のものを取り出し、ふぅと息を吹きかけてから地面に置いた。
胸に赤い筆で、へたくそな三日月マークが描かれているそれは、突然びくりと震えて、上体を起こして立上がったのだった。