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吼える月
第28章 企図
「まあ、不思議! 生きているみたい。……歩き出したわ!」
ひらひら、ひらひら、歩くだけで飛ばされそうになる頼りない紙の人形が、足らしき部分を動かして、なんとか分岐に行き着いた。
それは、それぞれの道の前で、首を傾げて考え込む姿勢を見せたと思うと、左側の道の前に戻り、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねて、ユエとユウナを見た。
「よし、左だって。ユエのお人形は偉いんだよ、正しい道を教えてくれるんだから!」
紙の人形にどこまで人間のような感情を持てるのかユウナにはわからなかったが、ユエが両手の上に掬い上げると、どうだといわんばかりに腕組みをして、ふんぞり返るような格好を見せた。
ユウナがどう反応していいのかわからず、その後になにかをするのかもしれないと、じっと眺めていると、その人形は片足を動かして、地団駄を踏み始める。明らかに不服さを訴えているような素振りだ。
「ユウナちゃん、ほら、ほめてあげて!!」
「え?」
「お人形さん、褒めて貰いたくて待っているの!」
「え……と。ユエちゃんのお人形さん。ありがとう。とっても頼りになるわ。これから出口までよろしくね」
するとユウナを見つめていたらしい人形が、ユエの手の中でぱったりと倒れた。その際の己が起こした微風に、己自身がふらりと飛んでいきそうになり、ユエが慌てて両手を丸めるようにして、掌にしっかりと入れる。
「どうしちゃったの!?」
「……ユウナちゃんの笑顔に腰砕けたみたい。サクちゃんに内緒にしておいてあげるね、きゃははははは!!」
ユウナは引き攣ったように笑いながら、それでもユエといれば出口に行き着く確信を強めた。
ユエはただの幼女では無い。
なによりサクが一任した少女なのだから。
サクに認められることに軽い嫉妬を覚えながら、ユウナは笛を吹くユエと、紙の人形が示す道を進んでいく――。