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吼える月
第28章 企図
受け止めるようにしてそれ以上のユマの動きを封じたサクは、首にかみつけずにガチガチと歯を鳴らすユマに、きっぱりと言う。
――俺は、姫様を守って、姫様に惚れて貰えるような武神将になる。そのためにこの命を捧げた。だからお前を……守ってはやれないんだ。
――お前の望むものを与えられない俺を、恨むなら恨め。だが、自分を貶めるな。ユマ、お前の心を取り戻せ。戦え!
ユマから流れた涙を思い出しながら、サクは声に怒気を含ませる。
「両方だ。"見て"、"聞いた"」
ゲイは高らかに笑う。
「それは難儀だったな、サクよ。自分を慕う女が、お前が愛する女と同じ顔だったゆえに、好いてもいない男の妻となり、それとはまた別の男に骨の髄までしゃぶられているとは。余の精を浴び、煌めくような白い肌をしていただろう。その"美しさ"に、興奮して吐精したくなったか?」
「……ふざけんな!」
「ほほう、お前が"素振り"を見せたために、妻になれると思い込んだ哀れな女が、ここまで堕ちたのはだれのせいだ? 余のせいか?」
サクは険しい目を向けて、ぎりぎりと歯軋りをした。
「あの娘は姫の代替。あの娘を助ければ、姫に魔の手が伸びるぞ?」
「それで……、それでいいのかよ、リュカ!!」
サクの声はゲイを飛び越して、その後方にいるリュカに向けられる。
「俺の妹のような幼馴染みを、お前が好きでもない女を!! この男に捧げるために妻にして。それで姫様が、俺が! なにも思わないと本気で思ってんのか!?」
リュカは目を伏せていた。
「お前に"誇り"はどこにあるんだ!? 祠官を殺してその地位を奪い、姫様を穢して呪いをかけて!! それがお前の望む"幸せ"なのか!?」
「無駄だ、リュカは余の傀儡。余の"願い"を実現させるために、余に全てを捧げた。今のリュカはその心は、怨恨以外は虚無」
「リュカの心になにもねぇって? ……それこそふざけんな」
サクは青龍刀をゲイに向けた。