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吼える月
第28章 企図
 

「俺も姫様も、リュカを殺したいほど憎いのに、それでも殺せない。……その意味がわかるか!?」

「ほう? まだ"友情ごっこ"は続いていると?」


 ゲイは笑ってリュカに振り向く。


「リュカ、お前はどうだ? 怨恨以外の俺達は消えたのか!?」


「………」


「リュカ、答えよ」



 リュカは無感情な眼差しで淡々と言う。



「怨恨以外、すべては虚無。陛下の仰られる通りに」


「リュカ!!」


「ふむ……一羽飛び立った大きな鳥、あれにユマが見える……。やはりユマを放置はしておらなかったか。それを見逃すと思うか、余が。それ!」

 遠視の力で露わにされた光景。

 語尾に不穏さを感じたサクは、はっとしたような顔をする。


「ふふふ、今、海に落とした。既に、姫の代わりにもなれぬ、本能だけで生きる穢れた傀儡。食傷気味の余より、餓鬼の方が喜んで味わい食べるであろう。くくく、あははははは!」


「なんだと、ユマ――…っ」


「お前は助けに行けぬ。なぜならその間に、余が姫の元に赴くのがわかっているからだ。そして姫のためにユマを見殺しにするお前は、姫を見る度に、ユマに対して罪悪感を抱き続け、姫を直視出来なくなるだろう。あははははは!!」


 サクはぎりぎりと歯軋りをする。

 ゲイの言葉が呪いの言葉のように、心身に染み渡る。



 ユマと接する時、ユウナを思い出さなかったのかと問われれば、答えは間違いなく否であることを、サクは自覚していた。

 ではユマへの優しさは、すべてユウナ相手に対する代理のものだったのかと問われれば、その答えも否であった。

 ユマを人間的に好きかと言われれば自信持って是と答えるが、ユマを女として愛しているかと問われれば、それは昔から変わらず否である。

 ひとりっ子のサクにとって、ユマはずっと可愛い妹なのだ。

 そしてユウナに対しては、妹の感情ではないことは明白。
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