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吼える月
第28章 企図
自分の心の中ではっきりできている"区分け"を、早々にユマに教え込まず、ユウナへの報われない想いを、自分勝手にユマの優しさで癒やしていた……その浅はかさが原因なのだ。
個人的なユマへの好意に、僅かなりともユウナへの愛を滲ませてしまったから、その優しさはユマにとって"愛"の類いだと勘違いしてしまった。
自分が勘違いさせてしまった。
いずれユウナを諦めて、ユマを愛し妻にすると。
ユマの想いを軽く見ていたのだ。
時間と距離が解決出来ない想いが存在するのを、自分自身がわかっていたはずなのに、拒むことですべてが解決できると、自分もユマも痛みを分けあったのだから、きっとうまく収まるのだと、そう思っていた自分の甘さに反吐が出る。
ユマが生涯、自分を恨み続けるのならまだいい。
だがそのために綺麗な身体を穢され、動物じみた女に変貌してしまった。
自分がユウナへの愛を貫きたいがために、同じ顔の別の女の人生を滅茶苦茶にしてしまったのだ。
一番悔しいのは、すべては自分のせいだと責任を感じているのに、ユマが望むことをしてやれないのがわかっているからだ。
ユマに罪を感じるのなら、仮初めでも偽りでも、ユマに夢を見せればいいと思うのに、それが出来ない。
ユマに対しても、ユウナに対しても、嘘をつきたくない。
ユウナを守る宣誓をたてた武神将の儀式を、偽りたくない。
……そんな自分事情を優先してしまうのが、腹が立つ。目の前のゲイよりも、器用に出来ぬ自分自身に、腹が立って仕方がない。
失恋した時の、あの多大な心の痛みがわかるからこそ。
「船に残るは……一羽。それで姫とあの幼女が逃げるというわけか。幼女が何者かは知らぬが、所詮幼女。逃げるための鳥がないお前を、海の真ん中に残して、我先へと逃げようとするとは…。
だがな、リュカがそれを見越していたのだとしたら?」
ゲイは愉快そうに笑った。
「お前が今ここにいる間に、お前達がくぐり抜けた奇門遁甲の陣が敷き直され、さらには余の力により餓鬼が発生しているのだとしたら?」