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吼える月
第6章 変幻
黒崙に行くにはこの臨時関門を抜けねばならない。
未知数の武器と闘うか、迂回するか。
しかし外は土砂降りで、サクの上着を被っているとはいえ、いいだけ濡れてしまったユウナは寒さに震えている。早く暖かな場所を与えたい。
どちらを選んでも時間がかかりすぎるし、ここであれこれ考えている間にでも、ここから目と鼻の先である黒崙に見張りの手を伸ばされたら困る……。
思案顔のサクの目に入ったのは、脇の茂みに放り捨てられてあった、汚いぼろ布と縄だった。
やがて指を鳴らしたサクがユウナと共に馬から降りると、周辺の木から枝を切り落とし、落ちていたそのぼろ布で大きくくるんで、馬の鞍ごと縄で括り付けた。
「なんとか……人影に見えるな」
そしてサクは、馬の尻を思いきりはたいて嘶かせると、馬を暴走させた。
馬は、兵士達の横を疾風の如き早さで駆け抜け、反対側に走っていく。
「いたぞ、あっちだ!! 追えっ!!」
馬の音。銃器の音。火矢までもが雨の中に飛んで行く。
あれらを一手に受けていたら大変だったと内心ほっとしながら、サクは、ユウナを抱きかかえたまま、無人になったその場所を抜けて、雨の中走った。