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吼える月
第28章 企図
「俺のことを信用するしないはお前の勝手。だが俺を信用してみるのなら、俺から提示する条件はふたつ。
ひとつ、姫様の無事を保証すること。
ふたつ、俺を生きたジウ殿に会わせること。
もうひとつ言えば、俺以外に知るのはシバだ。念のためにシバを生かせてみたらどうだ? 今、殺すことはねぇだろう」
完全なる虚言。
それを見せぬように笑って喋るサクは、滔々と饒舌だった。
「……それを信じよと?」
「信じないなら、この話は終わりだ。だが考えてみろ、俺には姫様という弱みがある。馬鹿な真似したら姫様が危険になる。そんなことをわざわざ、俺がするとでも? 俺はそこまで馬鹿に見えるか? あっ…と、この場で力ずくでというのなら、仮に俺から言葉が出たとしても信憑性がないことはわかるな。つまり、真実の在処は遠ざかるということだ」
「………」
「ジウ殿の元に俺が行ったとして、懸念すべきことがあるか? いるのは殺されそうになっているジウ殿と、瀕死のシバだぞ?
そこにお前に連れられた俺が、わざわざ嘘をつくなんて、殺してくれと言っているもんじゃねぇか」
呵々とサクは笑う。
「判断はお前に任せよう。
俺が嘘をついていると思うのなら、ジウ殿とシバを無駄死ににすればよし。僅かなりとも、俺が知っている可能性があると思うのなら、俺に従えばよし。猶予は、ジウ殿の命だ。
これだけは言っておく。
俺は、姫様の無事のためならなんでもする。それがたとえ、親父の友達の意に反することでも、だ」
サクの目に迷いはなかった。
……もう少し。
サクは心の中で呟く。
もう少しで、眠りから目覚める。
ユエの笛の音に反応した、青龍が。