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吼える月
第28章 企図
◇◇◇
分岐の道ばかりがこうも沢山出て来るのであれば、紙の人形が指し示す道が正しいのか否かわからなくなるが、ユウナは紙の人形の誇りを傷つけないようにひっそりと、分岐となる場所の片隅に、地面に足で順に番号を描いていた。
だが出くわす道の前には、そうした痕跡はなかった。
次々に新たな分岐が出現している可能性は捨てきれないが、それでも紙の人形が悩みながらも進む道に、きっと間違いはないだろうと、ユウナは楽観視していた。
正しい道を歩いていると、不可解な自信があったからでもある。
それはユウナの耳にあるサクの白い牙が、外界にあるイタチの位置を指針しているために、それに近づくことで共鳴のような現象をもたらしていたのだが、そんなご大層な耳飾りとは思っていないユウナには、その自信のからくりを説明できない。
不思議なことすべては、紙の人形のお手柄になったようで、ユウナが地面に描いた数字が出ぬ場面が出る度に、褒めまくられる紙の人形もまた、自信を持って、考え込む時間を短縮して正しい道へと導いていく。
「こんなに早く歩けるなんて、サクちゃんの時とは全然違う~」
時折笛を吹きながら、先頭に立つ紙の人形の後ろを歩いていたユエが、不意にぼやく。
「どう違うの?」
ユウナはユエの横に並んだ。
「最初に道を教えてくれた時に、お人形さんが褒めて褒めて~と言っているのに、サクちゃんは……」
――なに威張り腐ってるんだ、たかが紙の人形のくせして! 仮に正解の道だとしても、ただの当てずっぽうかもしれねぇじゃねぇか。
――あ? 文句があるなら、俺にわかるように"喋れ"! だんまりなんて卑怯だぞ!?
「……紙のお人形怒っちゃって、暫く動いてくれなかったの」
「まあ……」
「だけどサクちゃんが(渋々)褒めた途端、やる気になって……サクちゃん曰く"相棒"に昇格。最後はとっても仲良しさんになったんだよ~」