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吼える月
第28章 企図
新たに現れた景色は、もう少しで広い甲板に出るところという、左右壁に挟まれた狭い廊の途中のもの。後ろには行き止まりになっている。
壁には刃が曲がった剣……偃月刀が飾られており、それを手にしたリュカは、甲板へ出る道を遮るように、たくさんの餓鬼を背にしていた。
「餓鬼達は、陛下に傅(かしず)く。陛下の命令を遂行するまでお前達を襲い続けるだろう。……今は、陛下から一任されている、僕の言うことに従うようだけど」
餓鬼達は、澱んだ目をユウナとユエに向け、牙のように尖った歯をがちがちいわせているが、リュカより前に出ることはない。
リュカの合図を待っているようにも見えた。
本能の赴くままになんでも食らっていた餓鬼も、強き者を"怖れ"、その命令に"従う"ことが出来るというのは、ユウナには不思議に思えた。
化け物である餓鬼にも、人間の心が残っているのか。
それとも、餓鬼達の本能を司れる、ゲイの支配力が凄まじいのか。
……突如現れる餓鬼は、一体なにから創出されているのだろう。
斬っても死なない餓鬼が、食らった人間の数の分増えたとしても、総体数として多すぎる気がした。
夥(おびただ)しい数の船から海に投了され続けていた餓鬼の数、そして今ここで増殖し続ける数を思えば、それはとうに黒陵の民の数を超えている。
黒陵で見た餓鬼は、サクが斬り落とした部分が本体とは別に動いたが、それは今のような"個体"には、再生出来なかった。あくまでその時の形状を維持するだけで。
今、目の前にある餓鬼達の姿は、崩れた輪郭であっても、たとえば腕だけ、たとえば足だけというように、器官だけで独自に生命を保っているわけではないから、個体自体が新たに生まれているように、ユウナには思えた。
黒陵の民だけではまかないきれないくらいの、餓鬼の数――。
どこか別の浮島にいる…蒼陵の街の民も混在しているのか。
それとも他国の民もいるのか。
増え続ける餓鬼の出所が、はっきりしない。
それともゲイは、"無"から餓鬼を作れるというのか。
餓鬼の被害に遭い、生きた屍と生まれ変わった餓鬼とは、また別の種の餓鬼がいるということなのだろうか。
餓鬼に違いが見受けられないユウナは、ただ餓鬼に惑う。