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吼える月
第28章 企図

 
「もう逃げられない」


 いまだ増殖し続ける餓鬼を背に、リュカは残忍に笑う。

 甲板が見える距離であるのに、この廊は狭く。

 餓鬼の猛攻を怖れるのなら、退くしかないのだが、後ろは行き止まり。


 つまり、逃げ道がないのだ。

 
 生延びる可能性を高めるためには、リュカと餓鬼の群れを乗り越えて、広い甲板に出ることが必要のように思われた。


「僕を越えていけるのか? 越えていったとしても、そこからどうする?」


 いつも優しく、包み込むような微笑みを絶やさなかったリュカが、捕食者のように獲物を追いつめることを楽しんでいる。

 まるでゲイのように。


「ユウナちゃんには、ユエの笛があるもん! ユエが餓鬼を動けなくしちゃうもんね!」


 ユエが笛を見せながら張り上げた勇ましい声に、リュカが声をたてて笑った。


「それは、倭陵に伝わる浄化三雅楽…女神ジョウガの笛か?」

「!!?」

 ユエは瞳を大きく揺らし、態度でリュカの言葉を肯定した。


 そんなご大層な肩書きがついていることに、ユウナは驚き、ユエの握りしめる笛を見る。

 燻したような鋼色をした横笛を。


 さらにリュカは言った。
 


「それは――、浄化の鈴、浄化の小鼓(こづつみ)が共に奏でてなければ、それは奏者の魂を吸うと言われている……、曰く付きの笛じゃないか?」

「……っ」


 ユエは肩を震わせた。

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