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吼える月
第28章 企図
 

「それを吹くことで餓鬼の動きは止められても、浄化して消さない限り、お前は命を削って吹き続けることになる。今、増殖をし続ける餓鬼と、体力勝負をして勝てる自信があるのと?」


 ユウナは目を見開いた。


「ユエちゃん! そんな危険なものだったの、その笛!」



 ユエは俯き、そして顔を上げて言った。



「ユエ、そんな難しいことわからな~い、きゃはははは!!」



 リュカの片眉が、不機嫌そうに跳ね上がる。



「ユエは元気だよ、ユウナちゃん!」



「だったら、それを証明して見せろよ。……餓鬼共、行け。ユウナを捕まえるのなら、あの子供を好きにしていい」



「きぇぇぇぇぇぇ!!」



 リュカの号令で餓鬼が奇声をあげて動く。


 ユエが笛を吹き始めると、餓鬼がぴたりとおかしな格好のままで止まるが、次々に増殖して現れる餓鬼共には、再び笛の音を聞かせないと、新たな動きを止められない。

 笛を吹き続けねばならないユエに、餓鬼をすり抜けるように、リュカが音もなく歩んできて、


「――去ね」



 足を踏み込むと同時に、ユエの腹に掌打を食らわせた。


 笛の音が止まる。



「ユエちゃん!?」


 それでも笛を握りしめながら、突き出したユエの腕を掴んだリュカは、まるで軽いものでも手にしているかのように、ぶんと反対側に大きく振り投げた。

 ユエは餓鬼の山をゆうに越え、ちらりと見える甲板すら飛び越え――



「海に溺れ死ぬか、餓鬼の餌となるか」



 ユウナの視界から消えてしまった。

 リュカの後方で餓鬼達が、怒ったような奇声をあげながら、リュカに許可された小さな餌を求めて、甲板の方に退いていく。


 逃げ道は拓いたというのに、早くユエを助けたいのに、立ちふさがるリュカは、何百の兵を率いているかのような威圧感があった。
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