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吼える月
第28章 企図
 

「ユウナ」


 ユウナはリュカから遠ざかろうと、足を後退させていく。

 そんなユウナの前で、リュカは偃月刀を振り上げ――



「!!!!」



 自らの髪を切った。


 ユウナの目の前で、リュカの特徴だった腰まである長い髪が、光の粒子が戯れているかのように、はらはらと舞い落ちる。

 幻想的な視界の中、やがて現れたのは、リュカの見慣れぬ短髪。

 そこには中性的な穏やかさが消え、男臭さを増した。


 男……。


 ユウナは、そんなリュカから先程まで"されていた"ことを思い出し、羞恥に赤く顔を染める。


 リュカは、服を脱がずとも、既に男なのだ。

 昔と変わっていないのは、自分だけなのだ。


 別人のような美貌を魅せたリュカが、薄く笑いかける。リュカの意図がわからず、呆然としているユウナに向けて、低い声で言った。



「穢禍術をかけなおそう。今度こそ、僕の憎悪を薄めないように」

「え……?」



「サクに想いを伝えようとすると、必ず発症する……そんな呪詛を」



「…やだ、やめて……」



 サクに想いを伝えたいのだ。

 "いい話"をサクに伝えると……約束したのだ。



「それが……"代償"だ!」



 なにの"代償"なのかを告げず、リュカは怯えるユウナを引き寄せる。

 なにかまではわからずとも、この先に辿る自分の運命を予見したかのように、泣きながらリュカから遠ざかろうとするユウナに、リュカは目を細めてなにかを呟いた。

 それは、意味がわからずともただ耳に入ってくるだけで、ユウナの背筋に悪寒をもたらす……、穢れた言葉。




「……僕の恨みを忘れるな、ユウナ」


 
 その言葉に、彼の憎悪を乗せた。



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