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吼える月
第28章 企図
 

 それはあの夜、玄武殿で見せられた憎悪と同じでありながら、その時にはなかった……新たに種を異とするものも加えられ、さらに闇に沈んだ…混沌とした禍々しさを見せた。

 次第にユウナを見遣るリュカの双眸が妖しい銀色となり、その異様さと眩しさに、ユウナはくらくらした。

 憎悪をまっすぐに伝えてくる銀の色。

 それは刃のように一直線に、ユウナの意志を貫き通して、深層の……その心に入ってくる。勝手に心に踏みにじられる本能的な恐怖に、ユウナがぶるぶると震えた時――、ユウナの耳につけている白い牙が、突如青い光を放ってリュカを弾いた。

 その衝撃に顔を顰めながらも、リュカは超然として言う。


「サクの……結界か。無駄だ。

僕もまた……同じ力があるのだから」


 リュカもまた青い光を纏う。


「同種の神獣の力は、一方を攻撃すれば自然と反射する。だが受容すれば……」


 ユウナを守ろうとする青い光は――


「相乗だ」


リュカの光を取り込んで、ふたりを守る結界となってしまった。


 その中で、リュカの銀色の瞳がユウナへ向けられ、ユウナは心が焦げつき出すようなじりじりとした感覚を覚えた。

 サクの笑顔の思い出が、リュカの憎悪の炎で焦がされているような――。



「嫌だ……」



 笑顔のサクが燃えていく。


 燃えて燃えて残ったのは……、サクが居たというくらいにしかわからなくなった、サクの遺灰。


「あたしから……サクを……消さないで」


 絞り出す声がやっと。ユウナの身体に力が入らない。


「消す? そんな…お前にとって"楽"なことはしないさ。一番の苦しみは、対象が傍に居るのに、なにもできないことだろう?」


 リュカの銀色の瞳をただ見続けるしかできないユウナは、目に透明な膜を張って抵抗を試みたが、リュカの憎悪はそれすら簡単にすり抜けた。


 リュカから目をそむけられない――。


 それがリュカの魔性。

 "光に穢れた者"。


 異質なものが、ユウナの心を塗り替えようと侵入してくる。


「やめ……て…・・」


 サクヘノオモイヲイジラナイデ。

 ユウナの心が悲鳴をあげる。

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