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吼える月
第28章 企図
 

 武闘大会でよく見ていたジウの息子、ヒソクと同じ顔をしていた。

 武闘大会で相手にやられると、いつも情けない泣き顔になることで、一部ではヒソクは父と正反対の軟弱野郎だと、陰口を囁かれていた。最強の武神将といつも決勝戦を繰り広げるジウに対する嫉妬が、出来の悪い息子に向かったわけである。

 そのヒソクが、あんな場所にあんな顔で…自らいるわけがない――。


 ジウは、ヒソクとシバの命が危ない状況にいるのか?

 もしや、ふたりの子供の命を天秤にかけられて動けないでいるとか?

 それは、ユウナの心にしっくりときた。
 

 上から見る限り、ゲイはジウに攻撃を加えようとはしていない。


 だとすれば今のうちに。

 ジウを迷わせてはならない。息子の命は等しく尊いのに、優劣つけさせてはならない。選ばせてはならない。


「あたし、ヒソク殿を助けに行くわ!」


 この危機をジウが乗り切るためには、ヒソクを安全な場所に確保する必要があるとユウナは考えた。シバがどんな状態かはわからないが、彼にはジウが近くについている。ならば命の危険が迫っているのは、ジウから離れた場所に浮かされているヒソクだ。


「お嬢、危ないよ!」

「そうじゃなきゃ、ジウ殿が危ないわ!」

「あんな奴なんてどうでもいいじゃないか! あたい達を苦しめた張本人だ。ざまあって奴だ!」

 周囲の子供達も同調したような声をあげる。



「いけないわ、イルヒ!!」


 ユウナは初めてイルヒに怒った。


「そんな考えのままなら、たとえ皆を苦しめてるジウ殿が死んでしまったとしても蒼陵は変わらない。武神将だけではなく、そんな民ばかりになっていいの!?」

「っ!?」


「ヒソク殿は、あなた達にとって憎い相手なの!? ただジウ殿の子供というだけでしょう!?」

 子供達は押し黙る。
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