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吼える月
第28章 企図
「わかってくれるならいいの。ここは皆が助け合わないと駄目。皆蒼陵の仲間でしょう? 誤解があるのなら後で解けばいい。なにもしていないうちから、先入観だけでひとの命を見殺しにしないで。だからあたし、ジウ殿の枷となっているはずのヒソク殿を助けに行く!」
「だけど危ないよ、お嬢が狙われたら……」
イルヒの涙声を消し去るかのような元気な声を響かせたのは、ユエだった。
「ユウナちゃん! ユエ、"あの子"とテオンちゃんを助けに行く! そうしたらユウナちゃんだけ狙われないもの」
「テオンちゃん!?」
イルヒが目を吊り上げた。
初めて見る女の子なのに、馴れ馴れしくテオンのことを呼ぶのは、自分が知らぬ間に出来ていた恋敵だと思ったらしい。
テオンが好きだから、助けに行きたいのだと。
ユエがまず口にした、"あの子"の存在など素通りだ。
「ユウナちゃんだけが行くより、ユエも行った方があいつを惑わせられる。同時に力を放てば、あいつの注意が青龍の武神将から離れるから、それはしないと思うの」
「わかったわ。危険を分け合うことになってしまってごめんね」
「きゃはははは~。ユエも"あの子"助けないといけないから!」
「あたいも行く!!」
イルヒが怒鳴るように言った。
ユエにとってテオンは"おまけ"であるという言い方であったのに、イルヒの中では、"あの子"=テオンに変換なされている。
テオンを救うのは、自分だけが義務づけられた運命だと主張しているように聞こえている。
「あたいもテオンを……」
「あ、テオンちゃんはユエが……」
そこでユエは、言い忘れていたテオンを思い出したのだが、
「あんたはシバ! テオンはあたいなの!」
イルヒは、ユエの救うべきふたりの優先順位が、かなりかけ離れていることを知らない。