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吼える月
第29章 変現
 

 ああ――、

 もう時間を稼ぐことができない。


 シバの息が止まりかけている。

 意識がもうないはずだが、蒼白な顔は苦しみに歪んでいる。


 生涯で愛する……唯一のソンファと似た、綺麗な顔が。

 ソンファですら、自決した時には苦しみを見せなかったのに。


 すまない、ソンファ。


 シバを守り切れなかった。

 私は最後の青龍の武神将として、鍵の在処は言えない。


 シバを守ろうとして嘘をついても、鍵の在処を知られまいと自決しても、私の死後、シバは死に絶えるだろう。

 
 だとしたら、せめて……私の死の道連れに――。
 
 それが苦しませずにすむ方法なら――。



 ジウは顔を上げた。



「答えよう」



 驚くのは、シバを抱えたテオン。庇うように前に出る……男のような女は強張った表情のまま。

 シバが薄く目を開けた。


 助けてくれ、と言っているのか。

 殺してくれ、と言っているのか。



「私が助けたい息子は……」



 ジウは悲しげな瞳をシバに向けた。



「ヒ……」


「だめぇぇぇぇぇぇっ!!」




 ジウを制する声は、空から聞こえた。



「ジウ殿、選んじゃだめぇぇぇぇぇっ!!」



 それは――。



「ユウナ姫!?」



 最近は海底に潜ってばかりで外界の様子は知らないが、武闘大会やら黒陵に行くときには、いつも会っている……ハンの息子が恋する姫。

 詳細の姿は見えないが、あの声は間違いなく姫のものだ。
 
 だが、頭の色が違う。

 
「なんで……銀に!?」


 "光輝く者"ではなかったはずだ。

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