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吼える月
第29章 変現
 
 ユエは……、


「駄目、ふたりは重すぎるよ~!!」


 死に物狂いで羽ばたく鷹の上に乗っているが、鷹の足に吊られる女、女が手で抱くシバが重すぎて、うまく飛び上がれずに段々と沈んでいく。


 ユエの声にゲイが振り返り、すっと瞬間的にユエのいる近くに現れると、長身の男が見上げる位置にいるユエを吹き飛ばそうと手を伸ばすが、鷹の下にいる女がゲイの足を払うようにして、ユエとゲイの間に立った。
 

「お嬢様を傷つけさせない」


 女の構え方は、武術を知る者のものだ。

 女によってふらつきを見せてしまったゲイが、悔しさに攻撃に転じようとした時、また別のところから集中力を乱すような声が聞こえてくる。
 

「武神将! 私めが彼を!」


 臨戦態勢に入る女の一方で、シバを持ち上げようと警備兵が降下する。ゲイの目をかいくぐってシバを持ち上げた時、振り向かずとも金色の光が飛び、その警備兵は鷹ごと貫かれ、シバが落下してしまった。


「私めが!!」


 シバを途中で受け止める、別の警備兵。


「させぬわ、これでも食らえ!」


 だがその鷹が落ちようとも、シバを空高く避難させるために、次々に警備兵が現れる。

 さらにシバの救出劇を補佐するために、直接ゲイと戦おうと勇敢に船に降りて来た警備兵もいる。

 それを見て、ユエは女と共に空に飛び上がった。

 残るは、シバとジウのみ――。
 


 警備兵3人が、大きな偃月刀を振り回してゲイに斬りかかるが、ゲイは瞬間移動のようにその場から消え、警備兵の背後に周り、手をあてると身体を爆破させる。瞬く間に3人は崩れた。

 警備兵はさらに降り立つ人数を増やしたが、屈強な警備兵も勇猛な太刀捌きも、すべて幻影を相手にするように、掠りもせずに逆に倒れていく。


「ああ、面倒だ。一斉に……」


「うぉぉぉぉぉぉっ!!」


 ジウが、地を轟かすような唸り声を上げた。

 かつて武闘大会で、サクはジウのこの気合いに完全に怯み、逃げ回るようにして、負けた。

 それは、この場にいる誰もが恐怖を感じるほどであったが、同時に青龍の武神将としての凄まじい貫禄を、誰もが目にすることとなった。
 
 この男を超えられるだけの、迫力がある者はいないと。
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