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吼える月
第29章 変現
◇◇◇
サクは惑うジウを見つめながらも、ユウナを始めとした子供達が空にいること、そしてユウナの胸元にイタチがいること、警備兵の殆どは船の上で死に絶えていることを確認していた。
船上にいるのは、ジウのみ。
早くシバを治療しなければ、命が危ないと慌てる空中の警備兵の声も耳に届く。
……それもサクの想定内。
ユエから聞かされたものが現実だとわかった瞬間、シバを助ける手立ては"これ"しかないと思ったのだ。
だから一発逆転を企図したのだ。
偽りのゲイですら、ここまでの惨状。
もしも企図する"それ"が実現出来ねば、偽りではないゲイの力の前に皆が死に絶える。無論ユウナも自分も。
すべての者の生死は、サクの企てが成功するかどうかにかかっている。
否、なんとしても成功させねばならない。
サクは、斜め後ろからリュカの視線を感じた。
じっと、サクがこれからどうするのか…その動向を窺い、サクの秘める力量を推し量っているかのような……、だがそれをゲイには気づかれまいとする、そんな控えめな視線。
あの時――。
サクがゲイに選択肢を提示した後、ユウナを迎えに出たはずのリュカがひとりで戻って来た。
――申し訳ございません、陛下。あの幼女が"女神ジョウガの浄化の笛"を持っていたため、このように攻撃を受けて、逃げられました。
サクはユエの子供の持つ笛の価値は知らないが、それを名目に戻って来たリュカの髪が、肩より短くなっていたのが、異常事態の象徴のように思えた。
それに対してゲイが、そのご大層な笛の名を反芻して顔を歪ませたところをみれば、ゲイをも辟易させるほどのものだったようだ。