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吼える月
第29章 変現
あの笛は、人外に影響する不思議な音を奏でるだけではなく、人間の髪を切る音も奏でられるのか?
なにか釈然としないひっかかりを覚えるサクは、髪の色や長さは関係なく、いまだリュカから優雅さを失われないことに、そしてユウナとお揃いの髪の色と長さになったことに、軽い嫉妬を覚えるのだった。
リュカの銀の髪の色が元々だとしても、ユウナがそれを追いかけるように自ずとその髪を同じ色に変えた。
そしてユウナが髪を短くすると、同様に追いかけるようにしてリュカも髪を短くしている――。
自分だけが除け者だ。自分だけがそのままだ。
ふたりは切っても切れぬ縁があるというのなら、それこそが"運命"、伴侶となるべき運命なのではないかと……、邪推せずにはいられなかった。
それでも、彼はユウナを振り向かせる決意をした。
リュカに譲ろうと必死に耐えていた…、昔とは変わったのだ。
ユウナに男として意識されたい。
ユウナと愛し合いたい――。
……そう思っているのは、はたして自分だけだろうか。
サクはそう疑問を投げかけるのだ。
リュカはまだユウナへの想いを抱えているのではないか。
そう思うと、船で犯そうとしたリュカの行動の意味も、いや……船にさらったこと自体、腑に落ちるものがある。
サクは、ユウナを船に拉致したリュカの行動を、信じていた。
信じて裏切られたのに、それでも信じろとサクの勘が告げていた。
どんな理由があってゲイについて裏切ったにしろ、リュカは非情にはなれないのだと。
……それが今も昔も変えられぬ、彼の基幹なのだと――。
リュカ――。
俺は、ここを乗り切ってやる。
お前が、"それは叶わぬ"と思っていたのなら、尚更。