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吼える月
第29章 変現
 


「サク殿……」


 サクは惑い続けるジウを見て、内心にやりと笑う。

 嘘をつけない性質だからこそ、この"時間稼ぎ"が出来る。


 生真面目な武神将は、これからどうすべきなのか狼狽しているだろう。そこから出る言葉は、どんなものでも現実味がある。

 ……たとえ嘘であっても。


 そうだ、もっともっと惑ってくれ。

 惑って時間を稼いでくれ。 

 俺が提示した"餌"があるから、ゲイは待ってられる。
 
 

 ゲイがひとの心を読み取る力がないのが幸いだ。

 読み取ってしまえば、すべての企図が失敗してしまう。


 ……そして、



 "……小僧"


 サクが、待ち望んでいた刻が、やっと到来するのを知った。


 "イタ公。姫様の首元で動いてなさそうだが、大丈夫か?"


 "……まあ暫し声のみだ。これからちょっと厄介なことがおこるゆえに。まあそんなことより、ようやく"通じた"。苦労したぞ"

 "ああ、ありがとよ。お前はそこで高みの見物をしてろ"
 
 "そうさせて貰う。我の武神将がなにをするのかをな"

 サクは、イタチの声に元気がないこと、"厄介なこと"に懸念したが、それは後で確認しようと、イタチとの会話をやめて、視線をしっかりとジウに合わせた。


「さあ、ジウ殿。言えよ…。鍵はどこだ?」


 ジウを見下ろすように見つめるサクの目が、僅かにゲイを向き、また正面に戻る。

 それがゲイを牽制するなにかの合図だと気づいたジウだったが、それがなにかわからず怪訝な顔をする。

 だが、思い当たるところがあったらしく、目を泳がせた。

 それは表向き、困惑しているように思えるものだ。
 
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