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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
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5年前。
その日の黒陵国では、1年に1度、4国持ち回りで開催される武闘会が決行され、4国の観客だけではなく、各祠官や武神将、皇主一家も訪れ、大いに盛り上がっていた。
武神将を含めた倭陵国の強者どもが腕を競い合うこの催し物は、15歳以下の少年の部と、それ以上の成人の部に分けられる。
各部において、参加年齢及び性別制限はなく、純粋に倭陵一の強者を決める催しにおいて、成人の部で優勝するのはいつも玄武の武神将のハン=シェンウであった。
そして今、少年の部での優勝者と開催国の祠官の姫が、祝賀の剣舞を披露し、観客達を魅惑させていた。
優勝したのは黒髪の少年。ハンの長男サク、今年14歳。
鍛えられたがっしりとした体躯を持ち、真摯な面差しには父親譲りの野生の鋭さを秘めている。戦闘技術の勘とすばしっこさは成人の男よりも遙かに勝っていた。
そのサクが、11歳になる黒陵国の姫……可憐に成長したユウナとともに、煌びやかな神事の衣装にて舞っていた。
黒陵が誇る、未来の武神将と美姫と名高いふたりの舞いは、実に息が合って、誰もが感嘆のため息を漏らして魅入るほどに美しい。
そんなふたりが舞う神楽殿を一瞥すると、すぐにくるりと背にしたハンは、潤む目を伏せ、口を手で覆って木の陰に隠れた。
微かに大きな肩が揺れている。