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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
「ハン殿」
落ち葉を踏みしめて声をかけたのは、成人の部にてハンとの決勝戦に負けた、青龍の武神将……ジウ=チンロン。
厳めしい顔つきをした髭だらけの大男は、浅黄色の服地に藍色の糸で青龍織と呼ばれる伝統的な模様を施した正装をしている。
「4年ぶりの貴公のご子息の優勝は見事であった。我が倅など、三回戦敗退という不甲斐なさ。連続瞬殺は、さすがはハン殿のご子息と感服致したぞ! さあ、ハン殿。どこまでも威厳に満ちた堂々たるあの見事な勝利の舞を、最後まで見届けようではないか。さあ、これで涙を拭いて……」
言葉を切ったのは、ハンが腹を抱えて大笑いをしていたからである。
「……威厳? 堂々?」
ハンは笑い上戸である。どんな相手でも物怖じせずマイペースを貫くハンは、それを隠そうとせず、よって武神将の誰もが彼が笑い崩れる現場を何度も目撃している。
だがそれはハンの弱みにはならず、一度そこに賊が襲いかかったことがあるが、ハンは笑いながら素手の片手一本で、たたきのめした逸話がある。
"父親が子供の勇姿に感動した"説は、完全にジウの勘違いであり、彼の目の前のハンは、ひぃひぃと笑いながら涙を零し、腹を抱えてふるふると震えている。
「ハ、ハン殿、いかがなされた?」
「ジウ殿。馬鹿息子の顔をよぉく見てやってくれよ、俺に似た女泣かせの色男の顔を。余裕めいたフリして剣舞を披露してはいるが、その実……完全に鼻の下伸ばして、無様な緩みまくった顔を隠そうと、あの強張ったおかしな顔。くっくっくっ」
「は?」