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吼える月
第6章 変幻


 サラの声がひっくり返ると、サクの中でユウナがもぞりと動いた。

 そしてサクの上着の中から、サラと視線を合わせる。


「ひ、姫様!!」


 サラが見たのはその目と口もとだけではあったが、彼女も黒陵の民ともなれば、ユウナの顔はよく知っている。本当に小さい時は、ハンに連れられて家にも遊びに来たこともあるほど、見知った姫だった。


「ご無沙汰しております、姫様。狭苦しい場所ですが、どうぞごゆるりと……」


 両膝を床につけて頭を下げて畏まったサラの前で、既にユウナは目を閉じてしまっていた。


 相手がサクの母親であると認識していたのかも怪しい。

 
「姫様……?」


 ユウナの無反応さに訝るサラに、サクは苦笑した。


「ちょっと姫様はお疲れなんだ。騒ぎ立てるな。そして姫様が此処にいることも内密に。あ、それとお袋の白髪染めをくれ」


 するとサラの可愛らしい顔が引き攣った。


「し、白髪染め!? なんでそれを……」

「若作りを隠しているつもりだったのか? 蒼陵の高級品を親父経由でジウ殿から仕入れていたくせに……」

「そこまで……!? いやいや、それよりなんで白髪染めと姫様が関係あるの!?」

「ちょっとワケあって、姫様を暫くウチで預かりたい」


 さらりとサクは言った。

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