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吼える月
第6章 変幻
「あ、預かる!? 姫の婚儀は明日でしょう!? あんたまさか駆け落……」
「なわけねぇだろ!? 理由は後で話すから。まずは風呂だ、風呂!! 早く、白髪染めを持って来てくれ。姫様が凍え死んだらどうすんだ!!」
「わかったわ」
サラはパタパタと忙しく自室へと向かい、再びバタバタと足音を立てながらやってくると、丸い容器に入ったものをサクに手渡す。
「しばらく風呂には来るな。誰にも近づけさせるな」
「ん……」
母親の心配そうな眼差しは、息子が長年片思いをしている婚礼直前の姫を連れているという事実に対してではなく、息子のその憔悴仕切った表情に向けられていた。
どことなく生気がない顔は、リュカと姫との婚儀が決まった時よりもかなり深刻そうに見えた。
言うなれば……死の雲に覆われているような……。
「サク、あんた大丈夫よね!?」
「お~」
振り向きもしないその声はいつも通りだけれど、その背中はやけに小さく儚げで……サラは不安になった。
「ハン……。早く帰ってきて」
最強の武神将なら、きっとサクの力になれるだろうから。
サラは、サクの後ろ姿をしばしの間じっと見つめていた。