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吼える月
第29章 変現
「はああああああ!?」
それに対して驚愕の声を出したのはサクだ。
「降臨するのなら、もっと血が濃い器にいけよ! なんでよりによって"そっち"なんだよ、優先順位が違うぞ!」
皆が目と口を開いて見守る先は、海の上。
「おい、青龍!」
サクが見つめるその先は、
「"この者"も我の力を濃く宿す。潜在的にだが。変現する器に十分だ」
海から宙に浮いている――、
「汝は、あの厳格な玄武を"使った"武神将か」
「ああ。今の玄武の姿は厳格に程遠いけどな」
「兄貴!!」
歪な姿をしたギルだった。
身体から深い青色の光が放たれ、欠損した部分が再生していく。
それは直に青龍が降臨したことにより、神獣自らの純粋の力が、玄武の力によってかろうじて死滅寸前であったギルの細胞に注ぎ込み、活性化させ……本来の機能を復活させていったのだ。
それは、ゲイの力も及ばない……見事な奇譚。
ありえない奇跡を目にしている子供達が、皆自分と同様に涙しているのをユウナは見た。
きっとこう思っているだろう。
やはり自分達を護るギルは、凄かったのだと。
青龍だったのだと。
自分達は、いつでも護られていたのだと。
神獣の存在は、ギルと重なり、ずっしりと心の拠所になったはずだ。
……自分の中の玄武のように。
ゲイはリュカを呼びジウに向かわせたが、ギルから放たれた深い青色の光に、リュカ諸共遠く弾かれてしまった。
「させぬわ。我が国を穢す者どもよ、去ね!!」
元通りの姿になったギルが、力を放つ。
させまいとゲイが金色の光を、空に浮かぶギルに向けてぶわりと放つ。
2色の光は空中でぶつかったが、金色は青色に次第に侵蝕されていくのを見た。
ゲイは、神獣の力に勝てないのか?
ユウナの疑問は、絶対的な強さを誇っていたゲイの致命的な弱点に思えて、未来がより一層明るく思えた。
玄武も青龍も、見捨てていない。
自分達の近くにいるのだ。
ユウナは手の指を組み合わせて、玄武に感謝の祈りを捧げた。
だからユウナは、飛ばされたはずのリュカの動きを見ていなかった。