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吼える月
第29章 変現
 



「シバ、青龍! ゲイに力を向けろ!!」



 サクの声に、シバはギルに怪訝な顔を向けた。



「ギルが青龍? あいつ……、そこまで馬鹿だったのか?」


 ひとり事情がわからぬシバは嘲るような笑いをしたが、ギルが抱える自分ごと宙に浮いているのを見て、その笑いは空虚なものとなり、驚いた顔をギルに向けた。


「玄武が選んだ武神将か。あの玄武が従うとは、なかなかに面白い奴よ」


 それはギルの声でありながら、ギルのものではないことを、直感でシバは悟る。なによりギルから、今までは感じなかった"青龍の力"を濃く感じるのだ。


「まさか……あいつの言う通り……」


「我は青龍、この国を鎮護する者なり。だが同時に、我の武神将ジウの実弟、ギルでもある。我の意識はギルと合一しておる。さあ、シバ。我の力が馴染んだその身体で、我の力を放て」


 ギルがシバから離れたが、シバは浮いたままだ。

 ギルから力を注がれているわけではない。空に浮くという奇跡をやってのけているのは、以前より身体に漲(みなぎ)る己の力のせいだとわかったシバは、どれだけの力を纏ったのか試すために、少し力を放ってみる。


「うわっ、シバ、なんで俺を狙うんだよ、あっちだ。あの金ぴかだ!!」


 故意的に試し打ちの標的になったサクが抗議の声をあげたが、シバの良心には届かない。


 以前のように苦しい思いをせずとも、想起だけで力が放てるようになったシバは、身体の負担が極端に減じたことも悟る。


 これなら、並べる――。


 シバは、自分以上の力を楽々と放っていたジウを思い出し、はっとして船の上を見た。


 シバの目は、動くジウの姿を捉えた。

 なにやら誰かと戦っているようだ。

 
 相手が誰なのかと、シバが目を窄めて見つめると……、


「なんでスンユ!? しかも髪の色が銀!?」


 その男は短髪のスンユとしか、シバには思えなかった。

 皇主の三男であるスンユは、光輝く者だったのか?

 自分と同じ境遇の者だったのか!?

 
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