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吼える月
第29章 変現
 

 リュカは神獣の力を持ちながらも、猛将ジウの肉弾戦に勝てず、シバはゲイの力に瀕死となった。

 ゲイの意志ひとつですぐに消えるような、脆弱な存在を相手にしても、だ。


 光輝く者という存在が希有なのではなく、ゲイという存在が希有ではないのか? リュカはどこでこの男と知り合った? なぜこれまでの存在を、リュカ以外誰も知らなかった?


 
「余の攻撃を……抑えられると……思っているのか……?」


 虚勢には思えない……そんな不穏な声を響かせて、まだ余裕があると言わんとしているかのように笑う。


「はは……はははは……甘いな……。そんなことだから……此の地を護れないのだ。祠官も武神将も……神獣も。玄武の……黒陵のようになるのだ」


 サクの眉間に皺が出来る。


「黙れよ、今どちらか優勢かわかってねぇのか?」

「ではわからせてやろう。……なぜリュカがいないと思う?」


 言われて気づく。

 ジウと戦って負けて倒れ込んでいたリュカがいない。


「飛ばしたわ。"妻と共にこの国でお披露目をする"などと……勝手に流布し、余に知られないようにと先にこの国に来た、そのツケを働きで払って貰う」


 "余に知られないようにと先にこの国に来た"


 やはり……自分の見立て通りの可能性が強まった。

 リュカは非情では無いのだ。


 恐らくは――。
 


「それまで……お前がしてくれた"時間稼ぎ"とやらをさせて貰う。さあ……来るがよい! "お前達"の制約はなにもない!」


 ゲイのかけ声と共に、なにかが海から宙に浮いた。


 黒い……人型のもの。

 空を黒く染めるほどに夥(おびただ)しい数のもの。


 海から空に向けて普通に飛び跳ねて移動する、邪悪なもの。


 それは――。



「うわああ、餓鬼だ。お兄さああん、大量の餓鬼が空で襲いかかってくるよ!」

「ひぃぃぃっ、なんで鳥がいないのに動けるんだよ!」


 テオンの声を追うように、イルヒが悲鳴を上げた。
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