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吼える月
第29章 変現
「は!?」
サクが声を上げた。
イタチ姿は自分が想起した器とはいえ、玄武のように、神獣が別の器に変幻出来ることができるのなら、青龍も……神獣の力を持つ者であるのなら、変現できるだろうと軽く考え過ぎていたことを、サクは悟った。
この場を乗り切り、そしシバとギルを救うためによかれと思ってした企図が、青龍の身に危険を及ぼすものとは思っていなかった。
人間の命になるということは、死ぬ運命にあるということだ。
今――。
ゲイを制し、海原となった蒼陵の大地を護り、更には民を宙にて守っている。その力のほどは凄まじい。
それが命獲りになるのなら、急遽作戦を変更しなければならないと思うのだが、ゲイを封じられている今の状況は、青龍がいるからこそ可能だった。
今護るべきものは、どちらだ?
民の命か?
青龍の命か?
ギルの声が響く。
「それでもよい。それでも、民を護れるのであれば。そのために我の武神将が苦労していたのだから、我は武神将を信じて神獣の生を棄てよう」
神獣の心意気が、この場全員が耳にした。
そこまで護られている現実と、そしてそんな青龍が信じるというジウが悪者ではないということを、無意識に悟り始める。
「青龍様……」
誰かが泣いた。
「青龍……」
「青龍……っ」
また違う誰かが呼応した。
青龍になにを望むではない。
青龍にただ感動して、自分達を護るありがたいものだと心から信奉始めた……それが本来の蒼陵の民の姿。
民達は忘れかけていた、神獣に心を寄せた。
そんな神獣に護られて幸せだと、真実そう思った。
この場にいる民は、子供と老人、少数の大人達しかいない。
ジウによって連れられた大量の大人達の姿は見えねども、神獣の声は、ジウに対する怨恨を薄れさせるほどの威力があった。
この国に住んでいてよかったと民は思い、泣いた。
民の思いが青龍に力を与える。
青龍が力をさらに増したのを感じて、ゲイが絶望のような声をあげた。
完全にゲイは、青龍に飲み込まれていた。