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吼える月
第29章 変現
「さあ、ではこの者を……」
ギルが、戦いに終止符を打とうと足を踏み出したのを、止める声があった。
「お待ち下さい、青龍!」
それは、テオンだった。
「これは僕達の問題でもある。
こちらでやらせて下さい!!」
その有無を言わせない毅然とした声に導かれたように、ひとを吊していない鳥が2羽、テオンの前に止まって背を向けた。
体を支えてくれているイルヒに声をかけ、新たな鳥に飛び乗ろうとしたテオンだったが、ふと思い出したように、サクに声をかけた。
「お兄さん。お父さんを殺されたお兄さんに恨みはあるだろうけど……」
「俺のことはいい。ここは蒼陵、黒陵じゃねぇ。お前がケリつけろ」
「ありがとう、お兄さん」
テオンがイルヒの手から離れ、鳥の背に飛び乗った。
足ではなく背に案内したのは、鳥なりの服従の姿勢だった。
それほどに、テオンの声には統帥としての迫力があったのだ。
初めて鳥の背に乗ったテオンだが、背筋を伸ばした姿は凜々しいもので、イルヒが惚れ直してしまう。
だがそんなイルヒには目もくれず、テオンはそのまま、ギルの姿である青龍の元に行き、鳥の上で……かつて祠官になろうとして学んでいた、祠官としての正式な挨拶をした。
まさか本物を目の前にすることになるとは、祠官の作法を学んでいた当時の彼は、思ってもいなかったが。
「はじめまして、僕の名前はテオンと申します。
祠官の息子として生を受け、この度……亡き父からその座を譲り受け、僕が蒼陵の新たな祠官とあいなりました」
「テオン!?」
「祠官だって!?」
「祠官の息子と言ってたよな!?」
「え、テオンって何歳だ? 俺達と同じぐらいの歳で、祠官というものになれるのか!?」
どよめきがあがる。