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吼える月
第29章 変現
「汝……、我の力がないが」
痛いところを突かれたテオンだが、怯まずにまっすぐとした目を返しながら言った。
「はい、僕はあなたの力を無くし、代わりに永遠なる父の愛を手に入れました。だからこそ、父の願いを……、そして皆を護ろうとして自ら憎まれ役を買って出たジウの心に報いるために、どうか……蒼陵を守るための長き戦いに終止符を打つために、ここを……僕達に任せて下さい」
そしてテオンは、怖いくらいに真剣な顔で言った。
「尊い神獣が……殺めてはなりません。
それは……、ひとである僕達の手で」
「……汝、我に指図するか。我は、汝を認めてはおらぬ」
「承知の上。これから、力がなくとも認めて貰えるように全身全霊で頑張ります。どんな試練でも受ける覚悟です」
テオンは揺るがなかった。
力がなくとも、この国を想う心は負けない。
そのためにずっと学んできた。
父の愛に応えるためにも、必ず、実力で祠官になってやる――。
「随分な自信だな」
「自信がなければ、祠官をやりたいなんて思いません!」
テオンのその返事に、ギルの顔をした青龍は豪快に笑った。
「ふふふ、玄武の心がわかった気がする。"未来に期待"か。……それもまた然り。汝のことはあとで話そう。
今、裁断はお前に任せるとする。ここは我の国でもあるが、汝達の国でもあるのだからな」
「お心遣い、痛み入ります。では……ジウ!」
「はっ」
テオンが後ろを振り返れば、ジウもまた鳥の背に乗っていた。
二羽の鳥は、テオンとジウを乗せて、苦しげにもがくゲイの真っ正面に立つ。
そしてテオンは叫んだ。
「青龍の武神将よ、青龍の祠官として命じる。
蒼陵を脅かす敵を殲滅せよ!!」
「御意!!」
そしてジウが手にした青龍刀は、ゲイの胸を貫いたのだった。
貫いたままの太刀を、ジウは吼えるような声をあげ、捻るように非情に回転させれば、ゲイが苦しみの声を上げて口から血を吐く。
そしてジウが太刀を引き抜いた瞬間、ゲイから大量の血が音をたてて迸(ほとばし)った。