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吼える月
第29章 変現
「あははははは!!」
声高らかに笑うのは、血を吹き出しながら生気をなくしていくゲイ。
肉体は機能しなくなっても、自らの誇りは決して失わない。
笑う。
笑う。
敗北に憤るでも、屈するでもなく。
己が置かれている状況がわかっていないかのように、狂ったように笑い続ける。その異様さに、周囲は怖じ気づいた。
「皆のもの」
己の末期に、何を言うつもりかと、誰もが耳をすませる。
「神獣の力に逆らえぬ余が、真実の余だと思うのか。……笑止!」
その意味をすぐに悟ったのは、サクだった。
「まさか……お前も偽物なのか!?」
「束の間の、偽りの勝利の余韻にひたるがいい。
浅はかな愚かなる人間どもめ、あはははははははは!!
ジョウガの飼う神獣自らのお出ましでは、"作られた"余は歯がたたぬ。
ここは出直し、青龍の鍵はいずれ、また別の余が貰い受けるとしよう。それまでせいぜい大事に国を守るがよい!」
「黙らぬか、ふんっ!!」
ギルが血糊の付いた青龍刀を振り上げ、ゲイの首を刎ねようとしたが、その前にゲイの姿が消えてしまった。跡形も無く。
神獣までをも変現させ、どんなに皆が死力を尽くし、そして攻撃の手応えを感じていても、所詮、実体のない幻を相手にしていたのだと、嘲笑いたいかのように。
誰もが思う。
本物はどれ程の強さかと。
――束の間の、偽りの勝利の余韻にひたるがいい。