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吼える月
第29章 変現
厚雲の切れ間から、輝かしい陽光が差し込んだ。
いつの間にか笛と鈴の音は止み、空を穢す者共は消え、蒼天が拡がった。
餓鬼が完全に払拭された直接の起因は、幼子の笛と女の鈴の音のせいだったのか、それともゲイが消えたことによるものなのか、餓鬼の終末をよく見ていなかった皆には詳細はわからぬが、それでもふたりの音があってこそ、自分達は助かったのだということは悟っていた。
蒼天に向けて、幼女の笑い声が響いた。
「きゃはははは! やった、やったあ!」
底抜けに明るく、そして愛らしい笑い声に、皆は緊張を緩めて、つられるようにして笑った。
日差しは、澱んでいた海を浄化するように、海に煌めきをもたらしていく。黒く濁っていた海は、以前のような透き通るような神秘的な美しさを戻していく。
今までの出来事が、夢でも見ていたかのような…そんな錯覚を覚えさせる美しい海。穏やかな海には異質過ぎる、船の残骸が浮かんでいる。すべては現実だったのだと知らしめるかのように。
景色から金色が完全に失われ、"なにか"がようやく終焉したのだと誰もが悟っていたが、澄み渡る海と空が拡がるこの場には……ぱっとしない、重苦しい空気が流れていた。
まだまだ、陰鬱なものが長く続いていきそうな……そんな気配を、皆が感じ取っており、手放しで喜ぶ者はいなかった。
それでも、この国には青龍がいる。
自分達は見捨てられていない。
そして新たな祠官が誕生したことは、今までとは違う日々が始まる、そんな希望を民は胸に抱くこととなった。
砦も浮島もなくなってしまった民は、どこで生活すべきか惑った。だが誰ひとり、他国に行きたいと言い出す者はいない。
そして今――。
ジウとテオンの父が、民をも欺きながら必死に作り上げて……完成出来ていなかった海底都市に、皆は居る。