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吼える月
第29章 変現
真なる輝硬石を作る為に、犠牲になったものはいない。ジウを恨む要素はなにもなく、ジウが如何に国を守ろうとしていたのか、大人たちが子供や老人に言い聞かせた。
青い輝硬石を作り出す必要が本当にあったのかと、その存在を訝しむものがいたが、作られたからこそ青龍が降臨してまで護って貰えたのだと、そして、機能は今後役立つかもしれないし、なにより、浮島になる以前よりも、格段に立派な街に住めるのはいいことじゃないかと、楽観的な結果論で集約した。
大地に根付いていない浮島生活は、不満を覚える者が多かったらしい。大人がいないために、修繕がなされていない荒ら屋で、吹き荒ぶ冷たい潮風に身を縮まらせていた子供達と老人は、笑顔だ。
生活するのが不便であっても、それでも皆は、海が好きだと一同に言う。街に耕せる畑があっても、また海で漁をしたいと、男達は腕まくりをする。
「大好きなこの国は、海の国だからな。俺達は海の民だ」
元来蒼陵の民は、気さくでおおらかな者が多いのだ。
ユウナに助けられたヒソクは――。
この街に連れられてきたが、その姿を消していた。
皆に合わせる顔がないと思ったのか、それとも罰を怖れて消え去ったのか、または義理の兄でもあるシバを見て、なにか思うところでもあったのか。
ヒソクの動向について、ジウは追おうとしなかった。
矯正するつもりであったのだが、ヒソクが二度も逃げるのなら、武神将の座を譲るのは諦めたようだ。
「まだまだ私が、武神将として働く。次の座は、この先でいい」
未来がどうなるかわからないのだと、ジウは笑った。
そしてサクは――。
戦いから休む間も無く、民が実際住まうために必要な修繕に刈り出され、そしてユウナは、お茶出しとサラ直伝のおにぎりを歪に結ぶ係になった。
ユウナは少しでも力になりたいと笑顔で、子供からも大人からも皆から人気の姫だ。
少しばかり嫉妬するサクもまた、皆から好かれているのだが、それに気づかず、ユウナから手渡されたおにぎりの中に、自分だけ具が入っていることに気づいて、機嫌を直した。
「あ、ずるい! 猿兄さんだけ特別に具が入ってる!」
サクがこっそりとにんまりしていたのに、目聡く子供に指摘されると、ユウナは真っ赤な顔をしてサクの前に出て来なくなってしまった。