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吼える月
第29章 変現
ジウが困惑しながら汗をかきはじめた時、子供達からようやく解放されたギルが現れた。
街を持ち上げる際、ギルから青龍は去ったが、青龍は自らの言葉が民に伝わって交流できるのが嬉しかったらしく、伝えたいことがあれば、何度も何度もギルの体を乗っ取ってしまうらしい。
ギルは「俺の体をなんだと思っているんだ」と、怒っているが、満更でもなさそうだ。
なにしろ、兄のジウにあって、自身にはないと思っていた青龍の力があったことがわかったのが嬉しくて、青龍に好き勝手にさせているそうだ。
ジウは、青龍が去ったのがわかった途端に、ギルに抱きついて、生きていて良かったとおいおいと泣いた。男泣きというものである。
やはりハンがサクに言っていた通り、ジウはその見かけの顔にそぐわず、情に厚くて……涙もろいらしい。
ギルが言う。
「青龍が大人達の命を受け取っていなかったらしい。受け取らず逆に力を使っていたから、尚更に動けず体力を消耗して、眠ってしまったんだと」
「は? だが私は青龍に力を注いで……」
「兄貴が注いでいた力は、すべて塔の中の奴らの生命維持に回していたらしい。その時青龍は半覚醒の状態で、浮遊する命を繋ぎ止め、生気がなくなった各々の体に戻し、それが…一度亡骸になってしまった身体に、また馴染んで目覚めるまで、青龍は護り続けていたようだ。その命を、虚無の体に無理矢理押し戻す際に出る……反発のような力が、海に渦を作るまでの動力になったようだぞ」
青龍はただ眠っていたわけではない。
たとえ無理矢理に逆鱗を獲られて憤慨していたとしても、自分のために失われる民の命を当然だと受け取れるような、そんな神獣ではなかったのだ。
愛する民を、動けぬ青龍なりに裏から護り続けていた……それが内幕。
それに疲れ果てて、また眠ってしまったところを、盟友である玄武に起こされ、別の器に憑依することを示唆されたらしい。
「なんと! では結局……私がしたことはなんだったのか。犠牲が出なかったと喜んではいられないではないか……」
ジウは消沈する。
それだったら、逆鱗をとらずに青龍を眠りにつかせなければよかっただけではないか、とジウは嘆く。