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吼える月
第29章 変現
  
「それは違うぞ、兄貴」


 ギルはジウと同じ顔で笑う。


「子供達が逞しく育ったろう? それに戦場が海だったから、被害が最小だった。なにもせずにいたら、きっと街が戦場となり、民は全滅だったかもしれねぇ。しかも今回一番活躍してくれたのは、隣国の武神将と隣国の姫だ。

【海吾】がなく、ふたりがまずこちら側にきてくれていなかったら、結末も変わっていただろう。シバも覚醒せず、青龍がいても果たしてあの男を倒せたかどうか。

シバは……凄まじい潜在能力がある」


 シバを見守り続けていたギルだからこそわかる、シバの才能。


「兄貴以上の逸材だ。それは兄貴もわかっただろう?」


 ジウは複雑な笑顔を見せる。 


「最強の武神将が護る国ですら破れたのなら、なにも策を講じていない…昔の蒼陵のままなら、すぐに滅びてしまっただろうさ。あの餓鬼共を放たれたら、終いだ。黒陵の二の舞」


「だが……」


「兄貴は、蒼陵の未来を作ったんだ。もしこの先、またあの野郎が現れたとしても、俺達が力を合わせればいい。そう思えるほど、蒼陵史上、初めて蒼陵の民は一丸となれたと思うぞ。そして俺達には、直に青龍が……ああまた……くそっ……」


 ギルが不快そうに顔を歪めさせた。

 青龍が出て来たらしい。


「我の武神将よ、すべては祠官や汝が、我に相談していればよかったのだ。我を崇めながらも、我がいないものとして独断で話を進め、我の了承無く勝手に逆鱗を奪い取った。それに対し、我は激怒し、自ら眠りに入り……その加護をなくそうかとも思うた。だがお前や祠官から我の力を奪わなかった。それがなにゆえかわかるか?」


「は、はあ……な、なにゆえでしょうか」

 ジウは面目ないと大きな体を縮めさせている。

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