この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第29章 変現
「汝や祠官が、子を想うその強さを感じたからだ。我は神獣、悪意なき者には、慈悲の心にて……理解をしたいと思う。我の選んだ者達を信じたいと思う。それが祠官と武神将との……信頼であり絆。我が自ら絶って如何なるや? ならば少しばかり見守ろうとしていたのだ。まあ結果眠ってしまい、玄武に叩き起こされてしもうたが」
ジウは青龍の言い分を聞いて、項垂れた。
一番の犠牲者は、勝手に逆鱗を獲られた青龍ではないかと。
「……仰られる通り、御身見えぬからと、護られている分際の私達が独断で強行すべき事柄ではなかった。……それは神獣に力を頂く私達の取るべき術ではありませぬな。……恩を仇で返したようなもの。まことに申し訳ございませぬ」
ジウは、悪意はなかったにしろ、逆鱗という青龍の存在を認めながらも、神獣の姿が見えないことを免罪符にして、道具のように"利用"しようとしてしまった事実をを反省し、深々と頭をさげ真摯に詫びた。
正義とは両刃の剣。履き違えれば、ただの不遜な暴虐を、正当化するための口実になりえてしまう。
それが、わかったのだ。
「神獣と武神将、そして祠官の本来の関係を、私は見つめ直したいと思っております」
ジウの陳謝を、誰もが見ていた。
それを止める者はおらず、逆に野次を飛ばす者もおらず。
神獣と武神将の関係を、民は不思議そうに垣間見ているだけだった。
そして間近でテオンも心に思うのだ。
自分には神獣の力はないが、神獣を敬う心は生まれた時からある。それで青龍を蔑ろにするではなく、青龍と共に新たな蒼陵を築いていきたいと。
黒陵の玄武のように、民の元に自ら降臨して、その知恵を授けてくれるのなら、何を怖れることがあろうか。よりよい国作りのために、意見を交換できる者が鎮護してくれているというのは、蒼陵の誇りに思った。
何の因果か、身につけた力はおかしなものなれど、それもいずれ来たるべき時に備えての防御の力にしたいと。どんな形であれ、蒼陵を護ることが、自分の運命だったのだとテオンは思うのだった。
「武神将、反省点は多多あろうが、汝は同時に、蒼陵が変わるきっかけを作った。それは忘れるではない」
優しげな声に、ジウは恐る恐る顔を上げた。
自分そっくりな顔が穏やかに微笑んでいる。
そこには怒りはなかった。