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吼える月
第29章 変現
「ひとは大きな力に護られ過ぎれば、惰性を芽生えさせる。だがなにも力がないとすれば、自らの足で動こうとするが、未来に希望を見いだせない。
汝は、民の心に、我の存在を希望として刻み込ませた。
神獣は自らは民の作る世界に介入出来ぬが、民が求めるのなら応えられる。民が我を必要として望むものが、我も望むものと合致する未来があるとするならば。それは……」
「誰もが笑って、どんな時でも生きる希望を失わないこと!」
遮るようにしてテオンが言った。
それはテオンも、強く願うこと。
青龍は遮られたことに渋面を作るどころか、逆に顔を綻ばせた。
「おお、汝なかなか話がわかるな。祠官と認めてやるのもそう遠くない」
「うわ、本当に!?」
厳格だと言われている青龍だが、中々に気さくだ。
本当に仲間なのか疑わしいとイタチを思い浮かべたサクだが、イタチの問題を後回しにしてしまっていたことを思い出して、質問した。
「なあ、青龍。イタ公なんだが、ぴくりとも動かねぇんだ。心で会話も出来ねぇしよ。理由、わかるか? なんだか厄介なことがなんだとか言って、元気がなかったのが最後の声なんだ……」
いつかは起きるだろうと、イタチの"開き"にして、日当たりのいいところに置いていても、一向に動く気配をみせず。このままなら本当に干物になってしまいそうな状況にあるイタチ。
青龍は難なく言った。
「ああ、玄武は……無意識界に堕ち、盟約違反の罰を受けている最中だろう」
「なんだそれは!」
サクは思わず立上がる。
「我ら神獣には、他神獣の国で自らの力を使ったり、他国の民から他神獣の力を勝手に開眼させてはならぬ。それを玄武は、あえてなしたのだ。我が眠り動かぬゆえに。そして我が目覚めたのは、そうまでして使命を思い出させた……玄武のおかげでもある。ふむ、これは人事ではあらぬな」
「……イタ公はこれからどうなるんだ?」
「これから10日、段々と強い責め苦を与えられる。いや、我からの声にも応じぬところを見れば、もう1日目が始まっているのかもしれぬ。
それに耐えらねば、玄武は長き眠りに入らねばならぬ。その間、玄武に関する力はすべてこの余から消える」
つまり、武神将としてのサクの力もなくなってしまうのだと、青龍は告げる。