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吼える月
第29章 変現
男子禁制――。
確かにサラがそう言っていたことを、今さらのようにサクは思いだした。
女だけの国緋陵に、一度男が入り込んだのを見つけられれば、その男を拷問の上に殺したり女の玩具にしてしまう、緋陵は女尊男卑の国なのだと。
男なら誰もが敬遠する緋陵で、例外として生き残れた男はただひとり。
それは当時武神将のサラに一目惚れをして、皆の前で「俺の女になれ」と堂々と求愛したハンで、既に最強と呼ばれていたほどハンは強かったから、緋陵の誰もが敵わず。その強さと男前の顔に、色恋沙汰には免疫のないサラはあっけなく陥落して、武神将の座を捨てるほどにハンに熱烈に恋してしまったのだと。
「お兄さん、女装するの?」
「するわけねぇだろ!」
「だったら、どうするのだ、サク殿」
サクは歯軋りをした。
それでも、イタチを見捨てられない。
イタチは、こうなるのを覚悟して、この国を……自分達を救ってくれたのだ。それを無碍にするのだけは、自分自身が許せない。
イタチは、あんな小動物の体をしているのだ。
そうさせてしまったのは、自分のせいだ。
自分の中の先住者が、まだ動き出す気配がないのは、イタチが抑えてくれているからだ。
イタチが眠りに入り玄武の力がなくなったら、自分もまた、危機的状況が現れる。またあの命を蝕む邪痕が現れる。
そうなってしまったら、ユウナは――。
「行く」
ハンは、ジウに自分達の身柄を託した。
ゲイを撃退した青龍が降臨するのなら、ここは安全かもしれない。だがそれは、安穏と出来る立場であればのこと。
イタチの危機に、じっと黙ってなどいられない。
「方法はあるの、お兄さん!」
「ない。だけど現地に行けば……」
反対したのは青龍だ。
「汝、緋陵の朱雀を甘くみておるな? 無鉄砲に侵入すれば、激情家の朱雀の怒りの炎が汝を焼き尽くす。……今の玄武なら、炎を払えまい」
「それで溶岩に入れって!?」
サクは泣きそうだ。
元気なイタチがここにいたら、情けないと長い尻尾でぴしぴし叩いてから、苛酷な鍛錬を申しつけただろう。