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吼える月
第29章 変現
わからなかった。
リュカの考えていることすべて。
リュカは、なぜ……あんなに悲しい目をして、自分を犯そうとしたのだろう。本当にあの時のゲイが言う通りに、隣室から聞こえたユマとゲイの睦み事に煽られての事だったのだろうか。冷徹な智将が、そんな声に振り回されるものなのだろうか。しかも、ゲイに捧げようとしている自分を。
わからない。
なにもかも――。
くったりしていてもまだ温かいイタチを抱きしめ、そのふさふさの身体に顔を埋めていると、声がした。
「どうした、具合でも悪いのか?」
かけられた声に、ユウナは慌てて顔を向ける。
「……シバ」
空に浮かぶ、細く赤い月。
赤い月光が、シバの煌めく青い髪を神秘的な紫色に染め上げた。
「身体が冷えるぞ。飲め」
「このお茶……シバのじゃないの?」
シバは、まだ暖かな茶が入った器をユウナに手渡しながら、ユウナの隣に座る。
近すぎず、遠すぎない距離――。
そこから、シバは薄い笑いをユウナに見せた。
「……気にするな。予備に持ってきただけだ。オレが飲みたかったからでは無い」
最初より、シバは笑ってくれるようになったように思う。
「……こんなに優しいのに、なんでお魚さんを殺しちゃうのかしら」
心の中の呟きにするはずが、口に出してしまったらしい。
「お前はしつこいな。まだそれ言っているのか!」
怒りながらシバは優しく笑った。
「……オレにそんなことを言い続ける女、お前だけだ……」
やがてその顔は、寂寞としたものに覆われ、彼は昏く押し黙る。
「どうしたの、シバ?」
ユウナの問いに、シバは躊躇いがちに口を開いた。
「お前が……羨ましい」
本音の吐露だった。
「あたしの? どこが?」
「お前はオレと同じような煌めく髪をしているのに、お前は皆にすぐ受けいられて愛されて。
だがオレには……奇異なる目しか寄越されない。お前のように……、オレの顔を見てまっすぐに話す女どころか、男もいない」
妖しい月に魅せられたかのように、今まで頑なに自分の心を覆い尽くしていたシバが、心の内を素直に語り始めた。